病院は女性に対し、健康上の問題はなく、再び妊娠も可能と説明。県政記者室で会見した為末院長は「ご夫婦の精神的苦痛は想像を絶する。大変申し訳ない」と謝罪した。医師は体外受精による不妊治療を数例しか経験していない。医師一人で作業し、第三者によるチェック態勢は取られていなかった。顔を上げるといつの間にかさっきの青白い顔のジャーナリストがコーヒーを飲んでいた。スーツの肩は降り始めた雨の影響だろうか、べっとりと濡れている。また眼鏡のフレームを触る。「しかしこの記事は間違われた一方の受精卵のことしか触れられていない。実は受精卵はこの時、ふたつあったんだ。それを別々の女性に移植した。中絶を選んだこの夫婦と、出産を選んだ夫婦が実はあった。もちろん出産を選んだ夫婦のことは病院も発表しなかった。記事になることもなかった。つまり、あなた方の両親だ。あなた方双子はそうやって生まれた」私は目の前がくらくらして頭を抱え、奇声をあげた。驚いたジャーナリストは席を立ち、私の隣に座って水を飲ませた。「まず落ち着いてくれないか」「落ち着くより、少し狂わせて貰ったほうがいいと思う。こんな運命信用しろっていうの?そんなの無理。あなたは突然現れて私たちの人生が偽りだったと言う」「そうは言っていないよ。ただ取材したいんだ」「取材したい?取材したいのなら取材費を払えば?」「それでいいのか?あんたの心はそれでいいのか?」私は自分の心に尋ねた。どうすればいい?私はどうすればいい?でも答えなんて出やしない。答えなんて考えるより泣きたい。けれどその時、私はふと笑ってしまった。「おかしいな。取材費なんていらない」「なんだって?条件は何だ?」「とても小さな秘密の感情が私のなかに生まれた」「何だ?」「不思議だけど、あなたとこれから性行為したい。どうしてかわからない。混乱をしていてわけのわかんないことを喋っているだけかもしれない。私のことを××だと思って抱いてくれていい。私は本当は××なの。そうしないとこの不思議な怒りは収まらない。××は光の人生を歩み始めている。私はその影。でもその二人ともの人生が最初から偽りだったとしたら、私たちはどうしたらいいの?もうじゅうぶん苦しんでいると私は思う」